内閣総理大臣 安倍晋三 様
拝啓
TPP交渉参加表明を拝聴し、一筆啓上申し上げます。
2013年3月15日。この日は我が国の農業の歴史に深く刻み込まれる日となるでしょう。
総理はTPP交渉への参加という大きな決断をされました。政権交代から3ヶ月。内憂外患の我が国にあって、1本目の矢が勢い良く放たれ、デフレ経済の的を打ち抜かずして、期待先行での円安、株高、さらに内閣支持率の上昇と、新政権の船出は順風満帆のようです。
さて、先の衆議院選で自民党は「『聖域なき関税撤廃』を前提とするTPP交渉参加には反対する」と国民に約束しました。
しかし、総理は“君子豹変”、一転交渉参加を決めました。オバマ大統領との首脳会談で「“前提”がないことを確認し、約束を違えたことにはならない」といわれるかもしれません。
しかし、それは米豪FTAで米国が砂糖を例外として再協議を頑なに拒否していることからみても、米国の姿勢を再確認しただけにすぎません。
また、総理は国益を「美しい田園風景」、「伝統」。「農村文化」といった“国柄”とし、「断固として守る」と言われました。
しかし、党の決議文にある、「重要5品目や国民皆保険制度などの『聖域』を確保できない場合、交渉からの脱退も辞さない」ことについては、「悪影響を最小限にとどめる」、「強い交渉力を持って結果を出したい」と言われただけで、「重要5品目を必ず確保する」ことについて名言を避けました。このことからも、総理の交渉に向けての気概の弱さがうかがえます。
さらに、農林水産物の生産額が3兆円(宮崎県1,254億円)減少する試算に対して「『関税は即時撤廃し、国内対策はしない』という前提での数字であるから、そういうことには絶対ならない」と言われました。仮にそうであれば、対策を示した上での試算を公表するのが筋ではないでしょうか。
また、政府が試算した関税撤廃のプラス効果(2.6兆円)は、主に自動車など輸出大企業の数字であり、内需中心の中小零細企業がほとんどの宮崎県では大きな効果は期待できません。
さらに申し上げるならば、3年前に宮崎県で発生した口蹄疫の経験からしても、農業関連産業への影響額がどれ程深刻かは自明の理です。
私たちは総理の「国益を踏まえた最善の道を実現する」との言葉を信じるほかありません。総理には重要5品目の関税など「聖域」を死守できない場合は、潔く交渉から離脱することをお約束していただきたいと切に願います。
そして、ご自身の言う「戦う政治家」として「美しい国、日本」を守り、「瑞穂の国にふさわしい資本主義」をつくっていただきたい。なぜなら、総理の言葉どおり「政治は未来のためにある」からです。
宮崎では早期米の田植えが始まりました。金色の稲穂がなびく風景を守れるよう、総理の勇断を心よりお願い申し上げます。
敬具
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